「ねずみは不法侵入者だ!」と叫んでみてもねずみには人間の法なんか伝わりません。
法も話し合いもままならないのだから、少々荒っぽいやり方になるのは仕方がないでしょう。
殺鼠剤や粘着テープやねずみ捕りを仕掛け、かかったヤツから片端から“処分”していくしかないのです。
しかし、正当性は自分にあると思い込もうと、それ以外に方法がないと割り切ろうと、生き物を殺すのはやっぱり気分の良いものではありません。
ねずみは嫌らしい生き物です。
見ようによっては可愛らしいのに、こそこそと這い回って、人目を忍んで餌やら巣の材料やらをかすめ取って行く習性には狡猾さを感じます。
罠にかかるまでなかなか姿を見せないのに、確実に我が家が蝕まれていく気配を感じるのもとても嫌です。
ノイローゼになるとまで言うと笑われてしまうかもしれませんが、一刻も早くどうにかしたいと思えば思うほどストレスは溜まり、焦り、パニックに近いような気持になるのです。
最初はその勢いで罠にかかるねずみを見るたびにせいせいした気持ちになったりもしたのですが、やっぱりこの処分をいつまで続けるんだと思うと欝々とした気分になり、ねずみの足音やモノを齧る音、食い散らかした痕なんかに心が蝕まれていく感じがしました。
それほど長く住んだ家ではありませんが、引っ越しも考えています。
ほう、ねずみにそうとう追い詰められているようですね。
しかしそれではねずみに追い出された形になってしまって悔しくはないですか?
出て行くべきはねずみの方だってことは間違いないのですから、引っ越しを検討するならむしろねずみの方だと思いますが。
同居人に迷惑をかけているからと言ってねずみが引っ越しを検討する訳がないでしょう。
引っ越しをするとしたらもうすべて食い尽くして、何もなくなったときか、災害にでもあったときくらいではないですか?
集団移動するものなんでしょ?ねずみって。
「レミングの集団自殺」とかって一時有名になったじゃないですか。
我が家に巣食うねずみだって何かのきっかけで大移動をすることはあるかもしれませんが、それを待つより自分たちが出て行った方が早いですよ。
娘もきもちわるい、眠れないって言ってるし。
ご自分の引っ越しを考える前にねずみに引っ越しを検討させることはできます。
超音波を使い、とても住めたところじゃないと思わせるのです。
よっぽど食材が豊富にあるとかでない限り、その場にとどまればあっちこっちから大騒音が響いてきて、ねずみの方がノイローゼになってしまいますよ。
超音波式のねずみ駆除器ですか…。
確かに聞いたことがありますが、実際にはあまり効果がないっていう話も聞きますよ。
人間には聞こえない周波数の音を立ててねずみを住めなくすると言えばもっともらしく聞こえますけど、慣れればたいした音ではないのではないですか?
高い買い物をしたのにまったく効果がないというのが一番嫌ですよ。ねずみにあざ笑われているようではありませんか。
ねずみ駆除に1万円出せますか。
なんですか急に。
まあ一万円くらいなら出せますよ。1万円でねずみ退治ができるなら安いもんです。
ねずみに引っ越しを検討させたい、いや強要したいのであれば「ねずみの引越しDX」を使ってみてください。9,980円プラス送料です。
ねずみの引越しDX?
そのままのネーミングじゃないですか。
ダメダメ、DXってあたりが胡散臭くて仕方ありません。
それに送料で一万円越えてるじゃないですか。
DXのことと送料分のことは目を瞑っていただくしかありませんが、ねずみに困っているのであればおすすめの商品であることに間違いはありません。
効果が出なければ返金してもらえる超音波式ねずみ駆除器なんてなかなかありませんよ。
ねずみがいなくならなければ返金してもらえるんですか。
それを早く言ってくださいよ。
言っていませんでしたか?
そうなのです、「ねずみの引越しDX」では、30日間試してみて、効果がなければ100パーセント返金保障を謳っております。
つまり、あなた様が失うものは何もないということなのです。
あ、ねずみ以外は!ねずみはちゃんといなくなります。
いやに必死ですね。
大丈夫です、そんな揚げ足をとるようなことはもうしません。
ねずみが家に住み着くことの何が嫌だって、多くの方が言うのはねずみによる被害はもちろんですが、退治したあとの始末に問題があります。
先ほどあなたが言っていたところの“処分”を嫌う方が非常に多い。
特に女性ですね。
死骸を見るのも嫌だし、自分で殺して捨てるのも気が引ける。
だからこそ、穏便に「引越し」をしてもらうという選択がベターなのです。
はい、わかります。憎たらしいのは憎たらしいのですが、いざ殺鼠剤を食べてしまったねずみを見ると「何やってんだよ馬鹿だな」って思うし、粘着シートにかかっているねずみも、まだ息があっても既に死んでいてしまっても嫌な気分です。
自分の意志でいなくなってくれたらそれに越したことはありません。
あ、でも、いなくなった後のねずみってどうなるんですか?
つまり、どこに行ってしまうのですか?
何ですか。いなくなったらなったで寂しくなってしまうということですか?
家から引越したねずみがどこに行くかは、残念ながらわかりません。
どこかでのたれ死ぬかもしれませんし、どこか別の住処を見つけるかもしれません。
そこです。その、どこか別の住処が、例えば隣近所のご家庭になってしまう可能性はありませんか?
自分だけがよければ良いという訳ではないでしょう。
大丈夫です。
そのときは私がそのご家庭に伺って、今回のようなお話をさせていただきます。
で、同じ商品を売る訳ですか?
なかなかあくどいやり方ですね。
ねずみ講というヤツですか?
冗談です。それにねずみ講とは意味が違うと思います。
第一私は別に営業マンという訳ではありません。
え、じゃああなたは一体誰なんですか?
そうですね。ねずみ男とでも申し上げておきましょう。
恥ずかしい人ですね。
え?いや、どちらかというと私はねずみ側の人間だということです。
ねずみと人の共存ははっきり申し上げて無理な話です。
ねずみが巣食えば人はねずみを殺すしかなくなる。
不毛な争いをして憎みあうのではなく、お互いに心から安心して暮らせる住処を作れたらと考えているのです。
野生のねずみにとっては酷な話かもしれませんが、野生とは弱肉強食の世界なれば仕方のないこと。人間に殺されるよりはずっとマシだと思うのです。
…なるほど。あなたは営業マンというよりはむしろ布教活動に奔走している聖者のような人だということです、かね。
…その通りです!
だからもし、あなたの家のねずみが隣近所の方々の家に出たのなら、やはり私はもっとも負担が少なく、確実性のある「ねずみの引越しDX」をおすすめさせていただく訳です。
もし可能なのであれば、あなたの家からねずみがいなくなった後、ねずみの被害に遭われた方を探し出し、ご自分の「ねずみの引越しDX」をお譲りしてもよいでしょう。
バトンを渡すようなものです。私は営業マンではなく聖者だからこそ、このようなご提案をする訳ですが。
もっとも、その場合は返金保障を受けられない上、万が一またねずみが住み着いたときは返してもらわなければならず気まずい空気が流れるというデメリットはありますので、慎重を期するならあまりおすすめできるやり方ではありません。
褒められた途端いやに饒舌ですね。
しかしあなたのお気持ちはよく分かりました。あなたはなかなか商売上手のようだ。
それにねずみでかなり困っていたことも事実だし。
その「ねずみの引越しDX」を試してみたいので、一つ譲っていただけますか?
ありがとうございます。分かっていただけて嬉しいです。では私はこれで失礼しますので、後程ご自分で専用のWEBサイトからご注文ください。
あ、本当に営業マンじゃなかったんですね。ありがとうございました。後で見てみます。